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第6話 たった一人の海苔漁師
体感温度マイナス10度。
東の空が白み始める午前5時半。
4年前、多賀城の海苔漁師は俺一人になった。
2011年3月11日。
その日はたまたま漁に出ておらず、
沖で海苔の手入れを終えて一息ついていた時だった。
急いで海苔を家に片付け高台へ避難したが
家も乾燥場も流されてしまった。
船も3隻失った。
もう海苔漁師は出来ないと思った。
しかし、多賀城から海苔漁師を失くしたくなかった。
先が見えない状況の中、国と県の支援を受けて
昭和2年から4代続く家業を再開することができた。
海苔の仕事を今に残せているのは誇りに思う。
1日に板海苔にして約5万枚分を収穫する。
いつもいい海苔が穫れるわけではない。
おいしい海苔は黒くて艶があって美人だ。
伊藤和光/多賀城唯一の海苔漁師。昭和22年山形県大江町に生まれる。自衛隊入隊のため、昭和41年に多賀城市へ移住。昭和44年に結婚し、妻の家業である海苔漁師になる。
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