第12話 いつも写真はわたしに寄り添う
表現としての写真に憧れていたから、
仕事にすることは抵抗や違和感があった。
でも、社会人として生きて行くためには、
もうこれしかない。
そう気持ちの中ですり合わせて、
スタジオカメラマンの職に就いた。
もともと文章を書くのが好きだった。
でも、ある時ことばでは表現できない感情があることに気づいた。
自分が想うことと、相手が受け取ることには、少しズレがある。
その隙間を埋めるかのように、
わたしはいつの間にかカメラを握っていた。
それから10年の歳月が経ち、
わたしは結婚し、お腹に新しい命を宿していた。
産休が明けたら職場に戻る予定だったけれど、
1ヶ月後に東日本大震災が起きた。
子供と離れたくない──。
仕事は長く休めず、結局2ヶ月で復帰したが、
精神的にバランスを崩してしまった。
1年間頑張った。でも限界だった。
スタジオカメラマンは休日が繁忙期。
子供の誕生日も休めない時がある。
もう辞めよう。
結婚、出産、成長。
人生の節目節目にシャッターを下ろす。
「おめでとうございます」
が、最初にお客様に伝える言葉。
それでも、撮影の仕事は続けたかった。
夫が家に写真スタジオを作ることを勧めてくれて、
自分たちで壁を塗り、小さなスタジオが完成した。
志し高く、というより、
最初は避難場所だったのかもしれない。
ああ、これがわたしがやりたかったことなんだ。
幸せな時間を写す仕事。
カメラマンは、誰かの喜びの瞬間を形にする仕事。
人とのコミュニケーションが苦手だったわたしは、
写真を介したつながりによって成長させてもらっている。
小野寺香那恵/カメラマン、ヨーガ療法士。写真スタジオcaja del juguete photo studioを平成25年にオープン。中学生の頃、銀色夏生の世界観に影響を受けて写真を始めた。6年前から学んでいるヨーガを伝える活動も行っている。