第13話 多賀城の守り神

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陸奥国の国府があった多賀城を象徴する遺跡は多々あるが、現在も形を留め伝統を受け継いでいる陸奥総社宮。総社とは簡単に言えば陸奥国(岩手県の南半分と宮城・福島)にある百社の神社をすべて集めたものだ。そもそも国府に赴任した国司の最初の仕事は国内の神社を巡って参拝することだったが、平安時代になると、国府の近くに総社を祀り、一箇所でお参りできるようになった。

 

神主である市川壽夫さんは現在71歳。塩竈市の生まれで、大学時代に出会った奥様との結婚を機に市川家に婿養子に入った。当時、大学工学部で学んだ金属の知識を活かし鉄鋼会社に勤めていたが、先代宮司が風邪で倒れ、ご祈祷ができなくなったのを目の当たりにし、「これは自分が継がなくてはならないのではないか」と48歳の時に思い切って転身したという。

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総社宮に限らず、信仰心の薄れ、最近では新型コロナウイルスの影響もあり、参拝客は減りつつある。「本来であれば、神社はみんなが集まる場所。コロナで集まれないことで、人と人との絆が断ち切られているような気がして仕方がない。そういうものを結び付けるのが神社の役割だと思っています」。市川さんはもどかしい思いを抱えながらも、神社を守って行くために様々な工夫をしている。例えば神社のウェブサイトを作ってわかりやすく魅力を発信したり、御朱印ブームをチャンスと捉え、息子さんの提案でオリジナルの御朱印帳も作った。御神木であるハクモクレンをあしらった美しいデザインだ。「初詣だけじゃなく、何かの折に触れて、気軽に来てもらえる場所にしたい」と、地域活動の中でも積極的に伝えている。

逆境の時代の最中ではあるが、市川さんは多賀城に対し「進化している町だと思っています。特に東日本大震災以降、現状よりもっと住みやすい町にしようという活気が見えるような気がします」と、常に新しいものを取り入れて、前に進もうという気持ちを感じているという。 古いものを大事にするためには、新しいものを取り入れる勇気も必要。神道には『常若(とこわか)』という言葉があるそうだ。常に若さを保つという意味で、例えば伊勢神宮の式年遷宮は20年に一度、伝統を維持するために行われており、これまで培われて来た技術を受け継ぐ意味も含まれている。「大事にするというのは放って置くことじゃないんですね。積極的に維持するためには何かをやらないと続いて行かない」。

 

実直なイメージの市川さんだが、意外にも趣味はカラオケ。「祝詞(のりと)の読み上げに役立つと言ってはお酒を飲みに行って歌っています。中学校の同級生とワイワイ集まっていましたが、ここ1、2年はコロナで全然行けていません。カラオケに行って一生懸命歌うと次の日は喉の調子がいいですね。我ながらいい声してるな、と思います(笑)」。

 

「多賀城にとって総社宮は守り神でありたい」と願う市川さん。古来より人と人を結び付けて来た場所を今日も守り続けている。

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市川壽夫/陸奥総社宮神主。大学卒業後、日鉄建材株式会社に24年間勤務した。多賀城ライオンズクラブに所属し、民生児童委員も務め、地域活動に貢献している。趣味はカラオケ。