第16話 色鉛筆から広がる世界

幼い頃から妄想したり、絵を描くのが大好きだった。しかし、美術大学への進学は親の反対もあり叶わなかった。

就職先は印刷会社。皮肉にもイラストレーターやデザイナーのデータをチェックするような仕事で、もどかしい思いもあったが、配色や構成の知識はとても勉強になった。

結婚して数年後、30代の後半で転職に失敗し、人生最大の挫折を味わった。どん底から救ってくれたのが、たまたま入った画材屋にディスプレイされていた100色の色鉛筆。それを見た途端、描きたい絵のイメージがぶわっと溢れてきて、気がついたら家にお金を取りに走っていた。

その頃は抽象画のような、「コンポジション」のような絵を描いていた。個展に来てくれる年齢層は中高年の方が多く、もっと若い人にも観てもらいたいと思っていた頃、待望の子供が生まれた。いつの間にか作風がガラッと変わって可愛い作品がどんどん多くなり、客層も広がり、自分の理想とする方へ向かっていった。

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現在描いているのは心象風景だ。幼い頃、父親が布団の中でよく「銀河鉄道の夜」を朗読してくれたことが影響しているのか、宮沢賢治の作品を読むと心象の世界が広がってくる。

僕の頭の中には映像が流れていて、その一部を切り取って作品にする。ズームしたり、アングルを変えたり、頭の中のスクリーンを紙の上に写しているような感じだ。絵の中に出てくる建物の間取りや、そこに住んでいる人物も想像しながら描いている。最近は「銀河鉄道の夜」の列車の中に登場するリンゴにすごく惹かれて、リンゴをモチーフにしている。

親の転勤で辿り着いた多賀城での暮らしは気に入っている。砂押川の川沿いを歩いて、母校である東北学院大を通り、東北歴史博物館の近くの森を抜けるウォーキングコース。川沿いでカニに遭遇するとつい立ち止まってボーッとしてしまうが、そんな時間は気持ちがリセットされて、新しい作品のイメージが生まれてくることもある。 色鉛筆は誰にとっても身近な画材。自分を救ってくれた色鉛筆の魅力をもっとたくさんの人に伝えていきたい。全く絵を描けないという人も、色鉛筆だと、まるで子供に戻ったかのように自由に描けるのだ。いや、絵を描けなくたっていい。妄想して終わってもいいのだ。そういう時間が今、本当に必要なんじゃないかと思う。

佐藤直樹/色鉛筆画家。詩人。東北学院大学卒業。2021年、長年勤めた印刷会社を退職し、並行して続けてきた創作活動を本格的にスタート。多賀城市のBAKERY CAFE Ko-an(こうあん)にて常設展示中。身近な画材である色鉛筆の魅力を広めている。