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第18話 君、ドラマティックソプラノだよ

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多賀城との大切なつながり

 

多賀城には2歳から3歳の頃に父親の仕事の関係で1年間住んでいました。近所の交番によく遊びに行っていて、いつもお茶とどら焼きをごちそうになっていたのを今でも覚えています。2016年にアメリカから帰国した際も、多賀城市立図書館完成の記念でオペラの舞台に立たせていただいたのですが、お巡りさんの奥様が観に来てくださったんです。今年も多賀城市制50周年記念式典で歌う機会をいただき、多賀城とのご縁がつながっていることが嬉しいです。多賀城は文化的な都市という印象があります。人も優しいですし、美味しいものもたくさんありますし。まず太陽が違いますよね。明るくて、ベネチアのようで、大好きな場所です。

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好きな音楽を一生の仕事に

 

オペラの道に進んだのは、実は情熱的な理由ではないんです(笑)。本当はバイオリンをやりたかったのですが、転勤族だったので難しくて。中学3年はピアノを始めるにも遅い時期だったので、それなら歌だねってことで習い始めました。自分の好きな音楽なら一生の仕事として頑張っていけるかなって。

大学卒業後は、視野を広げたくて、アメリカの総合大学の音楽科へ。19世紀の差別が普通だった時代に、彼らの心の痛みに寄り添う音楽を作曲したアメリカ音楽の父と呼ばれるフォスターに影響を受けて、私も開拓者精神を真似て人間的に大きく成長したいという思いでアメリカに決めました。卒業後もコロラド州やカンザス州の劇場でお世話になりながら、教会で演奏会させていただいたり、礼拝の音楽を担当させてもらったりしていました。

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世界でも珍しい声種

 

歌を始めた当初はバロック音楽をやりたくて、それにこだわった時期もあったのですが、自然とオペラの仕事が増えていったんです。最初はメゾソプラノだったのですが、成長と共に声も重くなってきて、2015年にアメリカのコロラド州へオーディションに行った時に、音楽監督から「君さ、ドラマティックソプラノだよ」と言われて、そこからドラマティックソプラノになりました。日本でも世界でも珍しい声種で、リヒャルト・ワーグナーなどの重たい音楽、重たい楽劇と呼ばれるものを歌っています。ソプラノのように美声を聴かせるというのではなく、箱ごと鳴らす、というか建物ごと鳴らすような感じです。重厚感のある神様の役とか、あんまり可愛くないんですけどね。ドスの利いた声なんです(笑)。声量出すためにランニングしたりウェイトトレーニングもしています。特にワーグナーは長丁場で4時間歌いっぱなしっていうこともあるので。かなりエネルギーを消費するので、公演にはメロンパンを5個、必ず持っていきます。

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ファリネッリと天国でアンサンブル

 

歌の魅力は、聴いている方とのキャッチボールができることですね。一生懸命歌っていると、お客様からも返ってくるんですよね。だから一体感が生まれる。特に歌は真正面から伝えられるのでぐっとくるものがあります。

ワーグナーをやっている方だとバイロイト祝祭劇場で歌うことを目指す方がほとんどだと思いますが、私には敷居が高いなと思っています。音楽と共に生きていければいいかなと。中学の頃から憧れているイタリアの歌手ファリネッリと天国で会った時に、恥ずかしくないように。天国でファリネッリとアンサンブルするのが夢なので。学んでコツコツ努力をして、アンサンブルした時に足を引っ張らないようにしたいです。

今年でオペラを始めて10周年になりました。友人から「10周年おめでとう!」というお便りが来るまで忘れてたんですが(笑)。実は忘れてたまま今年の12月にソロリサイタルを企画してしまって、全部歌曲なんですよ。オペラが1曲もなくて。オペラ10周年なのにオペラ歌わないひねくれ者みたいになってしまいました(笑)。

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早坂知子/オペラ歌手。エンポリア州立大学音楽学部卒業後、アメリカで音楽活動を続けている。現在は一時帰国し、県内を中心に活動。2012年から続けている被災地での慰問演奏や、伝統的なベルカント唱法を伝える活動など多岐に渡り活躍中。

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